l多雌制への挑戦


1 「成熟コロニーの明暗」

 ※個人的な性格の問題もありますが、これからアリを飼育する方や初期コロニーで楽しんでいる方は
この文章を読むことは控え、適当に写真だけ観ることをお勧めします。

 「知ることは絶望する事である」〜学生時代にどこかの教授が口癖としていたが当時は杞憂人の
戯言として聞き流していた。しかし最近、その気持ちが解らない訳でもない。
 透明の容器で人工営巣飼育を始めて数年。幸運の連続でクロオオアリの女王が無事生きている。
他のアリ飼育者の方々の飼育近況などを時々拝見させてもらっているが自分は本当に恵まれていると
思うことがある。
  ある意味飼育者の要求に応えてくれる(優秀な女王アリ)とめぐり合い、初めての産卵、第一世代の
ワーカー誕生、冬越し。そして2年目からのワーカー総数の増大。そのすべてに感動し、そのうちコロニー
全体がある種の「秩序」を形成する。ワーカー達はそれぞれの各部署に、女王の世話や卵、幼虫、蛹移動
やエサ探しなど、まるで統合、配属されたかのように御立派な係争処理ぶりである。
 「高位安定」聞こえは良いがこの言葉には惰性や倦怠が纏わりつく。もうこれといった新しい発見もなく
2月〜7、8月頃まで沢山の幼虫、蛹などみかけるがそれと同時期に寿命の古参ワーカー達の死体がゴミ捨て
場に確認されるのがまた悲しい。例えは悪いかもしれないがコロニー総数増率はどこかの先進国のGNP、
あるいはGDPのように微増である。しかし自分は確かに「高位安定」に憧れその目標達成の為にいろいろ
苦心したつもりではある。初期コロニー段階での飼育容器内の清掃やエサの研究。(主にタンパク質)
アリの総数増大に伴う人工営巣容器の増設時の事故防止策などなど。

 

毎日毎日
似たような
光景。
 しかも、ある日、新生オスアリ(羽アリ)も偶然生まれ、だんだんこの後に起こりうるであろう光景も
目に浮かぶ。そういえば創設女王の片方の触覚が切れていた。これでもうひとつの触覚も切れてしまったら
・・・。コロニー全体の運命もそれ相応に覚悟しなければいけないのかもしれない。
 それはさすがに気が引ける。そもそもクロオオアリが単雌女王制だからいけないのだ。相当念密な計画の
もと多雌制に挑戦した方もいるが難しいらしい。失敗例はよく聞く。それでも試したくはある。


様子見

 日曜日、幸運にもクロオオアリの新女王を見ることができた。気温28度。少し気分が悪くなるが友人が
運転ということでその地域に行った。友人は蟻にまったく興味がないので雑誌を読んでいたがそのうち
寝に入る。比較的硬い地盤地域。そこでの一部始終。

 すでに地表に出ている新女王が4匹。これから出ようとするものが3匹。(頭部と胸筋の大きさ参考)
しかし、このコロニーには不思議なことが幾つかある。玄人の方はもうお気づきだろうか?写真上では
一つ心当たりがあるかと思う。手で下の文章を隠して少し考えて見るのもまた一興。不思議というか
不自然といったほうが適切かもしれない。
  この巣を見ているうちに、少し怒りの感情が芽生えてくる。だいたい創設女王がこんな硬く、しかも
子供の指すら入らない隙間になぜ巣を造ったのか?もちろん自然界の厳しい環境を考えればいかしかたが
ないが、それでもである。こんなブラックボックス120%状態にするから透明飼育とかしたくなるのである。
 もしこれが透明度が高いコロニー創設で成長の過程を垣間見ることが容易だったら、私自身幼少期に
女王アリを捕獲しては、失敗して結果的にクロオオアリをいたずらに減少させる事は少なくてもなかった。
地表は石の様に硬い。入り口はとても狭い。秘密主義になるのは別にかまわないし、合理的だと思う。
ただ、たまに脳をもてあましている「少し趣味が変わった人間」にその秘密主義が仇となってかえって自分達の巣が破壊の対象となってしまうことに蟻達は気づいているのだろうか。・・・気づいてるわけはない。
 しかしこの巣の防御率は非常に高い。怒りの感情はいつの間にか感心に変わっていた。
    不思議というか不自然なのは、この日このコロニーから新オスの羽蟻が皆無だったことだった。
オスアリはどうしたのだろう?二つ目は、この地域は硬い地質であまり生物が見当たらず、樹木ぐらい
しかない。そうなると多分、その樹木に居るアブラムシの体液が主な餌になるのだろうが淡白質の餌は
どこから調達してくるのだろう。この新女王7匹だって、ただで発生できるものではない。食料の余剰から
というのも重要な要素なのだから余程何かあるのだろう。
    午後3時。気温28度。薄日。風やや強い。
う〜ん。気分が悪い。早くこの新女王達が結婚飛行しないものかと見守るが、新女王達はその辺を「近衛の働きアリ」とウロウロするだけである。結婚飛行するには風が強すぎるのだ。これは重要ポイントだった。

 結局この日、空に飛びだったのは写真(上の方にいる一匹)だけでこの新女王も後に追跡してみたら
(でかいので結構肉眼でも追いかけられる)強風で身体のバランスを失い、地上に舞降りた所が最悪で
クロヤマアリの集団強襲に遭い。巣に運ばれていった。・・・もったいない。多雌制への挑戦は前途多難の
予感である。







TOP